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住基ネットは情報セキュリティの問題ではない

以前より住基ネットに関し、住基ネット自体の趣旨についての議論と、情報漏えいなどに対する安全性に関する議論は分けて行うべきだとの意見を述べてきた。

今回の金沢地裁と、名古屋地裁での住基ネット離脱に関する裁判や、それに関する社説、論評等でも、自己情報のコントロールに関する議論と、扱う情報のセキュリティ対策の話がごちゃまぜで扱われていることが少なくない。

裁判の結果としては金沢地裁が、本人の意思で離脱することを認めなければプライバシー権を侵害すると認めたのに対し、名古屋地裁は参加を強制したとしてもプライバシー権は侵害されないとしている。

私の勝手な推測だが、住基ネットに反対している人も、賛成している人も、その理由を自分でも良く理解しないままに議論しているのではないかと思う。そのため、まず両者が冷静になり、それぞれ考えを整理した上で、きちんとした議論を行うべきだろう。

まず住基ネットによって多くの人が心配しているのは、それによって「自己の情報を関連づけられるということ(linkability)」ではないかと思われる。日本国内において「自己の情報を関連づけられない(unlinkability)」権利がどの程度認められるか否かは最終的には司法の判断によるところだ。

一方、住基ネットのセキュリティ云々の話は上記のlinkabilityを快く思わない人達がその主張を通すために、持ち出しているだけで、住基ネットがどれだけセキュアだと証明されたところで反対する気持ちは治まらないだろう。なぜなら、彼らの本当の関心はunlinkabilityにあるからだ。そのため住基ネットの是非をめぐり住基ネットがどれだけセキュアかという話をしても、あまり意味がない。

ただし、「住民情報の保護」という観点からは住基ネットの情報セキュリティに関する議論はおおいに行う必要がある。

これまでの住基ネットの安全性に関する議論はLASDECが担当する本体部分についてのみで、末端の現場である市区町村役場等の運用についてはお茶を濁されてきた感がある。実際全国全ての市区町村が安全な状態にあるなどということは誰も確認していないだろう。

住基ネットワークの有無に関わらず、市区町村役場からの住民情報の漏洩する事件などは存在しているわけであり、市区町村役場から住民情報が漏れるのであれば住基ネットの情報が漏洩することはあり得るわけで、そういった事態が発生しないように現状を確認し、問題があれば対策を講じ、適切にリスクを管理することが重要なのである。

「完全にセキュアなシステムは存在しない」というのは今や一般常識であり、安全だ危険だという議論を行うよりも、あらゆるシステムは危険であるという前提でいかに安全なものに近づけていくかという議論を行うべきだろう。

【参考情報】
■[住基ネット]「離脱を認めるほどの危険はない」(6月1日付・読売社説(2))
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20050531ig91.htm

■住基ネットを巡る二つの裁判判決(極東ブログ, finalventさん)
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2005/06/post_d3ac.html

■住基ネット訴訟とプライバシー権(猫の法学教室, S-Iさん)
http://sakaba.chu.jp/neco/modules/wordpress/index.php?p=20

■LASDEC:住基ネットに対するペネトレーションテスト結果を公開(武田圭史)
http://motivate.jp/archives/2005/04/lasec.html

■住基ネット:本当のセキュリティ(武田圭史)
http://motivate.jp/archives/2005/04/post_43.html

カテゴリー: 情報セキュリティ タグ:
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