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情報セキュリティを英語で学ぶ意義について


カーネギーメロン大学日本校が情報セキュリティに関する教育を全て英語で行うことについてご意見を伺うことが多い。「卒業後に日本でセキュリティに関する仕事を行うのであれば日本語じゃないと学べないだろう」と言われるとそんな気もする。では情報セキュリティの何が日本語でないと学べないのかと考えると明解な答はない。

実際には情報セキュリティに関する用語や概念の多くは海外から輸入されており、むしろ日本語で学ぶことによってその本来の意味がわからなくなっているものも少なくない。「脆弱性」はセキュリティ用語としても確立されてはいるが、この分野にある程度いる人であれば「脆弱性」の意味は「vulnerability」のことだと認識しているのではないだろうか?Exploitはやはり「エクスプロイト」であり「攻略」と言われてもなんのことやらわからない。「privacy」はプライバシーだし、「audit」を「監査」「audit trail」を「監査証跡」と言われてもピンと来ない。

情報セキュリティを専門としている人にとってはまず英語の概念や技術体系があってそれぞれに対応する日本語を知っているということが多いように思う。私自身の経験から言えば、現場の担当者が日本語ができなくて困ることは無くても、英語ができないことが制約となることが多い。(もちろん最低限のビジネス日本語が操つれること前提だが。)

そうなると大学院の高等教育の中で何を日本語で教える必要があるのか?「個人情報保護法」や「不正アクセス禁止法」などの日本の法制度に関わる問題については、対象そのものが日本語で定義されており解釈や実装についても日本語中で対処せざるを得ないだろう。また、こういった法令やガイドラインに基づくセキュリティポリシーなどの策定にあたっても日本語のスキルがある程度あった方が良い。

しかし、こういった法律やガイドラインそれに基づく文書は情報セキュリティという広い概念の中で、日本という一つの国を対象としたアプリケーションにすぎず、個々の事例に対応するための専門教育を大学院のような高等教育機関で教える必要性は小さいのではないか。例えるならコンピュータのOSの構造や仕組み学ぶのか、Windowsの操作方法を学ぶのかの違いである。つまり英語で学ぶか日本語で学ぶかの違いが問題となる状況というのは、Windowsの操作方法を学ぶかUnixの操作方法学ぶかというレベルの話であり、OSの根底にある技術を理解した上で、応用の利く専門家としての人材を育成するのが目的であれば、その過程でどのような言語を用いたとしても結果として大差はないだろう。本質を理解していれば必要に応じて解説書やマニュアルを見ることで対応することができる。

また、英語では表現できない日本ならではの情報セキュリティの「わび」や「さび」といった世界もあるのかもしれない。日本企業の組織構造や業務慣習などといったものを理解しなければならないという話もあるが、それは大学院のような場で学ぶというよりは、実際の組織での勤務経験により理解する必要がある部分だろう。実際の業務の場面では全ての企業や組織はそれぞれ異なる文化や習慣を持っているわけであり、結局は国籍言語を問わず全てケースにおいて個々の事情に合わせた対応が必要であるため、技術知識を習得する過程での言語はあまり影響しないと思われる。

一方で、世界で流通している情報セキュリティに関する情報の大半は英語であり、コンピュータやネットワークの機器も英語を前提としたものが多い。そのため、日本語のできる学生が、日本語で情報セキュリティを学習した場合と、英語で勉強した場合とではまず教材の選択肢や質が異なってくるし、卒業後にインプットとして活用できるようになる情報量に差が出てくる。つまり日本語で情報セキュリティを勉強した場合と、英語で勉強した場合とではその後の実践段階において圧倒的な差がつくことになる。必要な場合には日本語の知識を自ら補えば良い。日本国内ではいろいろな書籍が手に入るので大した苦にはならないだろう。

マーケティング的な観点からは、日本語で学習をする学生を集めた方がずっと募集は楽である。しかしその一方で教育の前提となる大学としての水準の保証、教育をとりまくインフラ(テキスト、題材、資料等・・・)、卒業後の活躍の幅などを考えると、英語での教育を選択をせざるを得ないというのが実情だ。

ちなみに、カーネギーメロン大学日本校では、「法律やガイドライン」「組織管理」「監査」など日本独自のアプリケーションについて、希望者を対象に学位とは関係なく「日本校独自科目」という形でこれらの知識を習得する機会を提供する予定である。

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  1. balancedman
    2005 年 9 月 15 日 10:06 | #1

    はじめまして。とても興味深く拝見させていただきました。
    日本でPh.D. degree のコースを開講される予定は今後あるのでしょうか?

  2. kazu
    2005 年 9 月 15 日 16:40 | #2

    全て英語で行うことについて意見がある方が多いのですね…。
    確かに、日本にあるのだから日本語で…、という考え方も一理あるとは思うのですが、武田さんが書かれているように、不利な面が多く出てくるように思います。(私自身も英語は辞書片手に読むというレベルなので特にそう思う。)
    書籍の数を見ても明らかなように、セキュリティ関連の日本語書籍は他ソフトウェアの書籍に比較すると少ないと思いますし、Amazon等を検索すると英語で書かれているものは数が多いことがよくわかります。
    また日本語に翻訳→出版される時点で、ゆうに半年は経過しているわけで、少なくとも最新を追いかける必要がある場合には、英語を避けて通れないというのも事実だと思います。
    英語をはなせる人は多いと思うのですが、実際にテクニカルタームを理解して会話できるというのは訓練が必要であり、このような面は(無論、駅前留学ではできないだろうし)自分で何とかするしかない状況と思いますし…。その意味では、有益な情報を日本から発信するという意味でも制限がある、ということにもつながりますよね。
    英語ができないから、授業が受けられないデメリットは確かにあるのかも知れませんが、それ以上にあえて英語で授業をやるという面は、評価できると私は考えます。

  3. keiji
    2005 年 9 月 16 日 01:17 | #3

    balancedmanさんコメントありがとうございます。
    現在のところMasterのみのコース設定となっていますが、将来的にはPh.D.の養成も視野にいれていきたいと考えています。正規のプログラムとしての設置時期については今のところ未定という状態です。もし興味がありましたらぜひ大学の方に御問い合わせください。

  4. keiji
    2005 年 9 月 16 日 01:20 | #4

    kazuさんいつもありがとうございます。
    貴重なご意見ありがとうございます。やはり第一線でばりばりやっていくには英語ができた上で日本語もできるのと、日本語でしかできないのでは大きな差だと思います。
    といってもどうしても敷居が高くなってしまうのが難点でもあるのですが。ただこれからはセキュリティに限らずどういった分野でも日本だけというわけにはいかなくなってくるような気がしています。
    また、ご意見やご感想がありましたらぜひお聞かせください。

  5. 2005 年 10 月 9 日 14:55 | #5

    カーネギーメロン大学日本校

    「カーネギーメロン大学日本校」から眺めるハーバーランド。センタービルの17階で眺望はバツグン。

    入り口はFeliCaによる認証システムになる予定。入ったと…

  6. しばてん
    2005 年 11 月 28 日 05:56 | #6

     私も Ph.D. のコースを探してしまいました。ただ、自分が Master(国内)を修めた頃に比べれば、セキュリティ分野のカリキュラムは格段に充実していて、Master からやり直す意義も大きいかと感じました。

     さらに、企業に勤めながら通えると喜ばしいですね。そういった辺りも含めて、それとなく大学に問い合わせてみることにします。

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