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映画「ユナイテッド93」と陰謀史観


(ネタバレあり、ご注意ください。)

米国同時多発テロ事件を題材とした映画「ユナイテッド93」を観てきた。期待するものにより映画の印象は人によって大きく異なるようだが、良くできた作品だと思う。特に無理やり観客を泣かせようとするような見え見えの演出も無く、なるべく色をつけずにこの事件を描こうとする姿勢に好感が持てた。当該機に乗り合わせた人々から当時の様子を聞くことはできないため実際に機内で何が起こったかは分からないが、遺族や関係者の証言に基づいたストーリーのようで、現実の状況にかなり近いのではないかと感じた。

映画の前半、複数の航空管制拠点とNORAD(北米防空司令部)とのやりとりが延々と続く場面は、退屈と感じる人もいたようだが、正誤さまざまな情報の錯綜や、コミュニケーションの不全、ROE(交戦規定)の重要性など危機管理のケーススタディとして学ぶ点は多い。

同機の墜落に関しては自作自演や米軍機による撃墜などいろいろな陰謀論がささやかれているが、その真偽は別として映画で描かれている状況はかなり現実的なものだった。私自身防空管制業務に携わった経験からみても違和感が無く、いかにも起こりそうな混沌とした状況が描かれていた。もっとも実際に事件の現場に立ち会った管制官や軍関係者が実名で映画に出演したり協力したりしているので、いくらかの状況は彼らにとっても都合の良いものとされている可能性もあり、実際の状況はもっと酷いものだったに違いない。ちなみに映画の最後に現れる言い訳がましいステートメントは、かえって観客に疑問を抱かせ逆効果だろう。

この事件に限らず、政府など公的機関に対して様々な陰謀のストーリを描きたがる人たちがいるが、幸か不幸か公的機関の多くは陰謀を企て実行するに十分な動機も能力も持っているとは考えにくい。政府と言えども様々な背景や価値観を持った人間によって構成されており、さまざまなしがらみに縛られている。各種政策や陰謀などと言われるようなものであっても、驚くほどばかげた経緯によって決定されたり実行されることも少なくない。

また、現代社会では情報の自由や透明性が高まっているためにいわゆる陰謀を成功させるには、相当強固な絆や利害で結びついた少人数による実行でない限り秘密にとどめることは難しい。一方、組織にとっては多少ミステリアスな雰囲気を醸し出しておいた方が権威が高まることもあり、あえて陰謀を完全否定しないようなこともある。組織に属する人間にとっては、外部向けに「実はたいしたことないですよ」というよりは、「ここだけの話、実は・・・」みたいな話をした方が受けが良く、嘘とも本当とも言えないような何気ない話に尾ひれがついてまことしやかな陰謀の噂が広まることもある。

私の経験では「実はたいしたことないですよ」と言っても、どうしても陰謀を唱えたい人達から「それはお前が知らないだけで、実はかくがくしかじか・・・」のように逆に教えられることも少なくないのだが・・・。

(参考情報)
■映画「ユナイテッド93」公式サイト
http://www.united93.jp/top.html

カテゴリー: 文化 タグ:
  1. 2006 年 8 月 23 日 17:22 | #1

    はじめまして。どうして陰謀を唱えたいわけではないのですが、優秀な「陰謀論」の論拠の数々は知っていても悪くはないと思います。以下にまとめましたので、よろしければご照覧ください。

    http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/story/?story_id=1476426
    http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/story/?story_id=1466198
    http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/story/?story_id=1461254

  2. touchstone
    2006 年 10 月 9 日 22:38 | #2

    リップマンの「世論」を読みましょう

  3. 2006 年 11 月 30 日 18:24 | #3

    ユナイテッド93

    ユナイテッド93

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